このような特別な催しに際して「好きなことを勝手に話す」機会を頂いたということで,お題の「LHC」を少しだけ逸脱して,通常の場ではほとんど扱わないテーマを問いとして掲げてみたい.それはこの方向性の「学問」が存立できる根拠(存立理由)を考えるということである.この分野の数十年の発展が,一回きりの資源(例:新粒子の発見)を燃焼することで,幸運にも自己再帰的に次の爆発のdriving...
現在運転中のスーパーカミオカンデはニュートリノ振動実験、陽子探索実験において世界を先導してきた。それを更に大型化,高性能化したハイパーカミオカンデではより高感度での実験が可能となり、ニュートリノ振動におけるCP対称性の破れの確認や陽子崩壊の初観測等の成果が期待される。本講演ではスーパーカミオカンデにおけるニュートリノ、陽子崩壊研究の現状とハイパーカミオカンデで期待される展望等について述べる。
地球活動を駆動する熱量の約半分を占める地球内放射性物質起源の熱量の理解は、地球ニュートリノ観測という素粒子物理・地球科学の分野融合研究として進展してきた。世界中で行われているニュートリノ実験の中でもKamLAND実験は2005年の世界初観測以降、現在でも世界最高精度での観測を安定的に継続しており、日本発の融合研究分野とも言える。本講演では「ニュートリノ地球科学」の今と未来をニュートリノ実験の立場から紹介し、新たな研究発展への議論へと繋ぎたい。
超弦理論は量子重力の理論である一方、豊富な数学的内容をもつ精緻な理論であり、それ自体大変興味深い研究対象である。その一方で、我々の住んでいる宇宙そのものについて、いかにして超弦理論から実験的・観測的帰結を引き出すかは長年の課題である。超弦理論から我々の宇宙の実験・観測についてどのような知見が得られる可能性があるのか?またそのために何がなされる必要があるのか?本講演ではこれらの問いについての手がかりのいくつかを議論し、超弦理論の可能性について展望したい。
量子ビットはエネルギー準位が制御可能できる人工原子としての側面を持ちつつ、デザイン次第では原子に比べてはるかに大きな結合定数を持つ。センサーとして高いポテンシャルを秘めているのは明らかである。同時にこれはノイズにも弱いことも意味するが、低ノイズ環境への追求は量子コンピューターの文脈でこの20年大きな飛躍を遂げ、電磁ノイズといった凡庸なノイズは効かないが面白いノイズ (コヒーレント光子・ダークマター・重力波etc.)...
宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の精密観測による物理成果は、宇宙物理学のみならず素粒子物理学においても歴史的に大きなインパクトを与えてきた。観測装置の向上や実験の大型化によって、CMBの偏光観測による宇宙のインフレーションやニュートリノの絶対質量等の重要な課題に大きな進展を迎えつつある。本講演では、現行のCMB実験の現状と将来計画の進展を紹介しつつ、それらの物理成果がもたらす宇宙・素粒子物理学の新展開に関して議論する。
ミューオン電子転換過程は荷電レプトンフレーバー保存を破る過程(CLFV)であり、標準理論ではニュートリノ質量を考慮したとしても到底実験で観測できるレベルの崩壊分岐比にはならならい。すなわち、発見すれば直ちに新物理を示唆する。ミューオン電子転換過程探索実験は現在J-PARCのCOMET実験、FNALのMu2e実験が準備を進めている状況で、双方ともいよいよ近い将来に実験開始予定である。本講演では、主にCOMET実験の現状について紹介し、Mu2eの状況や他のミューオンCLFV実験について、さらに将来の展望について議論する。
K中間子を用いた実験として、稀崩壊事象であるK→πννの精密測定を通した新物理の探索が欧州と日本で進められている。この崩壊ではsクオークがdクオークにフレーバーを変える中性カレントによって遷移する。標準理論の枠内では小林益川行列の特異な構造により遷移確率が抑えられいる上、理論的な不定性が小さいために、新物理の探索に有益なモードとなっている。本公演では、現在進行中のCERNのNA62実験とJ-PARCのKOTO実験の成果とこれらの将来実験の展望について議論を行う。
電子の電気双極子モーメント(EDM)は時間反転対称性を破る存在であり、標準模型から予測される値は非常に小さい。したがって標準模型の予想より大きな有限値の電子EDMを観測することができれば、新物理の間接的な証拠となる。近年では原子や分子を用いた電子EDM探索が盛んに行われており、すでに既存の加速器実験を超えるエネルギー領域に対しても制限を与えつつある。本講演では、冷却された極性分子ThOのビームを用いるACME実験の現状に加え、現行実験・将来計画についても紹介し、電子EDM探索の展望について議論する。