マイクロパターンガス検出器 (MPGD) &アクティブ媒質TPC合同研究会
https://conference-indico.kek.jp/event/240/
第20回MPGD研究会と、第7回アクティブ媒質TPC座談会の合同研究会を、今年は東北大において、2023年11月17日(金)と18日(土)に開催いたします。
MPGD (Micro-Pattern Gas Detectors) は、素粒子・原子核実験・宇宙観測など科学分野に広く用いられてきましたが、近年はX線や中性子を利用した非破壊検査や医療分野など、産業面での応用研究も活発に行われるようになってきました。一方で、暗黒物質探索、ニュートリノ物理研究、医療用PET、宇宙観測などを目的とし、標的・ソース・コンバージョン機能を果たすアクティブ媒質を用いたTPCの開発研究が盛り上がっています。国内でも、陰イオンガス、高圧ガス、液体(Xe,He,Ar)と多様な研究が行われています。
これらの検出器には、要素技術で共通な部分が多く見られますので、合同研究会を企画することで、研究者間の交流や新たなアイデア創出を促すことを目指します。専門家だけでなく、これからMPGDやアクティブ媒質TPCを利用しようとする初心者も大歓迎です。
興味を持たれる多くの方にご参加いただき、活発な議論を行いたいと考えております。奮ってご参加下さい。
*日時:
2023年
11月17日(金)13:00-18:00
11月18日(土)9:00-17:00
*場所
東北大学 青葉山キャンパス 理学研究科合同B棟 541号室
オンラインでの参加も可能です。
接続先:https://zoom.us/j/91471648473?pwd=ZWpyYkpKeno0ME9nTTZrL0s5U1liZz09
*内容
1) MPGDの基礎開発、特性評価
2) MPGDの読み出し回路開発、試験
3) MPGDの応用
4) TPCに必要な要素技術(高電圧、ガス・液体純化、電荷&光検出器、読み出し回路など)の開発、試験
5) アクティブ媒質TPCの応用
6) 関連する検出器のアイディア・開発
*講演申込、参加申込、旅費補助
講演希望の方は、10月27日(金)までに
https://conference-indico.kek.jp/event/240/
のregistrationフォームよりお申し込み下さい。
参加のみの方は直前まで受け付けます。
旅費補助が可能ですので、必要な方は世話人にご連絡ください。
また、オンラインでの参加のみを希望される方は、参加申込の自由記述欄にその旨ご記入下さい。
*世話人連絡先
kiseki_at_epx.phys.tohoku.ac.jp, atsuko.ichikawa.c6_at_tohoku.ac.jp (_at_ を@に変えてください。)
*研究会世話人
越智、身内(神戸大) 玉川、四日市 (理研)、大田(阪大RCNP)、郡司 (東大CNS)、 門叶(山形大)、宇野、小沢、坂下(KEK)、関谷、窪 (ICRR)、寄田 (早稲田大)、市川、中村(東北大)、高田、 谷森(京大)、中野(大阪公大)、石野、桜井 (岡山大)、杉山(佐賀大)
*主催: 高エネルギー加速器研究機構・測定器開発プラットフォーム
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ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊事象の探索を目的とする AXEL 実験では、高圧キセノンガスTPCを用いている。キセノンをはじめとする希ガスのシンチレーション光の波長帯は真空紫外域にある。VUV光の直接検出には特殊な光検出器を要することや検出効率、バックグラウンド等のさまざまな問題があり、それらの解決を目指したシンチレーション光検出方法の開発研究を行っている。現在開発中のセットアップは波長変換材や反射材、MPPCといった容易に入手可能な物によって構成されており、試作段階にある。本講演では、シミュレーションによる検出効率の検証と、波長変換材塗布実験の途中経過、および高圧キセノンガス検出器への実装を見据えた展望を報告する。
MeVガンマ線領域は放射性同位元素の崩壊に伴う核ガンマ線が特徴的なので、超新星爆発中の元素合成の現場や銀河系内の元素拡散の様子を直接観測することができる。しかしMeVガンマ線は観測自体が困難なので未発達の分野である。そこで我々は従来のコンプトンイメージング法に加えてガスTPCにより三次元電子飛跡も検出することで、入射ガンマ線の方向を一意に定められる電子飛跡検出型コンプトンカメラ(ETCC)の開発を行っている。2027年予定の気球実験SMILE-3では、銀河中心領域の電子陽電子対消滅線や系内拡散ガンマ線などの観測を計画しており、それに向けてTPC信号読み出し基板上のFPGAにSpartan7を採用し、基板ごとのclock同期を取るなどの改版作業を行なっている。本講演では改版されたTPC信号読み出し基板の現在の試験状況について報告する。
理研では宇宙用として、レーザーにより穴加工した GEM を、さまざまな科学衛星に搭載してきた。2021年12月に打ち上げられたNASAのX線偏光観測衛星 IXPE と、理研が2023年11月に打ち上げる超小型X線衛星 NinjaSat について、プロジェクトを紹介するとともに、GEM の開発や運用について説明する。
NinjaSatは 2023年11月に打ち上げ予定の超小型X線衛星であり、運用上の高い柔軟性を活かして、従来の大型衛星では難しかった明るいX線天体の長期観測を実現する。 NinjaSat には 2-50 keV に感度をもつ 10 cm 立方サイズの GEM X線検出器 (Gas Multiplier Counter; GMC) を2台搭載する。 観測によって得られる天体のスペクトルには検出器の応答が畳み込まれているため、天体本来のスペクトルを求めるには、検出器応答を詳細に知っておく必要がある。 GMC の検出器応答を定量的に理解するために、我々は地上較正試験の結果を取り込んだモンテカルロシミュレータを開発している。まず、X線により検出器内で生じる2次電子の3次元分布を、Geant4 を用いて再現した。そして (1) ドリフト領域での2次電子の電子拡散・輸送、(2) GEM による電子増幅、(3) インダクション領域での電子拡散・輸送について、モンテカルロ法を適用することで電極に到達する電子数および時刻を見積もり、これに (4) アナログ信号処理回路の応答を畳み込むことによってX線の信号波形を模擬した。本講演では、シミュレータの概要に加えて、高エネルギー加速器研究機構で取得した単色X線データとの比較によるシミュレータの評価結果について報告する。
2023 年 11 月に打ち上げ予定の超小型X線衛星 NinjaSat に搭載する非撮像型 GEM X線検出器 (Gas Multiplier Counter; GMC) は XeArDME 混合ガスが封入され、2~50 keV に感度を持つ。GEM は温度変化によりわずかに歪みが生じるため、インダクション領域における電場の大きさが変動し、電荷の収集効率に温度依存性が伴う。 我々は打ち上げ前の地上較正試験で、運用温度を含む −10~+27 ℃ の範囲で電子増幅度を実測した。半径 33.5 mm の GEM に対して、約 2 mm 間隔に測定した 1015 点のX線照射データから電子増幅度分布を調査した結果、5 ℃の温度変化で電子増幅度が最大 1.1 倍になることが明らかとなった。本講演では、GEM の電子増幅度分布を検出器応答に考慮し、宇宙で観測する天体スペクトルがどのように温度依存するか調査した結果を報告する。
方向感度をもつ暗黒物質の直接探索実験であるNEWAGEは、ガスTPCを用いた反跳原子核の3次元飛跡再構成技術を用いて探索を進めてきた。更なる感度向上のため、読み出し検出器表面からのα線や素材由来のラドン放出量の低減を目的とした低バックグラウンドマイクロパターンガス検出器を開発した。本講演ではこの検出器の性能評価結果並びに地下実験での運用への準備状況について報告する。
Beta-ray imaging is now widely employed for autoradiography of living plants. Developing a cost-effective real-time imaging system for such applications remains challenging, given the requirements of low-energy detection, large sensitive areas, immunity to ambient light, and energy-resolving capabilities. Gas Electron Multiplier detectors (GEMs) show great promise in meeting these needs. In this study, a Glass Gas Electron Multiplier (G-GEM)-based imaging system was developed for beta-ray imaging using photosensitive etchable glass substrate. The system incorporated 2D individual strip-pad electrodes with a 500 µm pitch, along with a multiplexer-based pulse counting system for efficient data collection. The drift gap and induction gap were optimized at 5 mm and 3 mm, respectively. The detector system was operated with an Ar/CH4 gas mixture at a flow rate of 20 mL/min, a pressure of 0.1 MPa, and at room temperature. The effective gain and energy resolution were characterized based on the 5.9 keV mean peak and escape peak of the 55Fe energy spectra. The G-GEM achieved an impressive single-stage effective gain of 47,000, and the optimum energy resolutions were around 18% Full Width at Half Maximum (FWHM). Beta-ray imaging demonstration was conducted using metal objects with a 90Sr beta emitter placed at 216 mm in front of the cathode. The detector demonstrated its capability to accurately reconstruct differences in the shape and thickness of objects. These results highlight the promising potential of the G-GEM as a beta-ray imaging system.
方向感度を持つ暗黒物質の直接探索実験であるNEWAGEでは、モジュール搭載型の大型ガスTPC開発を行っている。このTPCのためのモジュール型検出器を開発し、試験用の小型チェンバーを用いてこの検出器の動作実験ならびに性能評価を行った。本公演では、この結果について報告する。
地下における希事象探索実験では、不純物の極めて少ない素材を用いた大型検出器が必要である。素材の極低放射能測定のために、low-alpha μ-PICを用いたTime Projection Chamberに基づいたアルファ線イメージ分析装置(AICHAM)を開発している。実験グループの枠を超えて、サンプル分析を実施し、並行して感度改善の研究を実施してきた。特に、CF4ガス発光(s1, s2)の時間差を使うことで、セルフトリガー式TPCでありながら、ドリフト位置を決定し、結果として雑音事象を抑制するアイデアを検証してきた。本講演では、最近のAICHAMの進捗について報告する。
AXEL実験は高圧キセノンガスTPCを用いたν無二重ベータ崩壊探索実験である。信号としてElectroluminescence(EL)光を用いることで高いエネルギー分解能を持たせるとともに、セル構造を持ったユニークな読み出し機構(ELCC)とシンチレーション光検出の組み合わせにより3Dトラック情報を再構成することで、バックグラウンドの排除を行うことが可能な検出器となっている。 現在までに180Lプロトタイプ検出器においてELCC12ユニット、7.6barキセノン中で測定を行い、1836keVで0.73+-0.11%(FWHM)の分解能を得ており、これは136Xeの0νββのQ値に換算して0.60+-0.03%に相当する。 次の1000L検出器に向けては、検出光量を向上する大口径MPPCの評価、放電を防ぐために diamond like carbon(DLC)を電極に用いたELCCや、ドリフト電場形成のためのコッククロフト・ウォルトン回路、波長変換剤を用いた効率的なシンチレーション光検出手法の開発等とともに、神岡宇宙素粒子研究施設での実験に向けた準備を進めている。本講演ではこれらの現状について報告する。
The µPIC-based Neutron Imaging Detector (µNID) is one of the main imaging detectors in use at the energy-resolved neutron imaging instrument RADEN at the J-PARC Materials and Life Science Experiment Facility (MLF). The µNID takes advantage of the pulsed neutron beam of the MLF for accurate determination of neutron energy via time-of-flight to measure the energy-dependent neutron transmission of samples. This allows the extraction of quantitative information on the microscopic structure of the sample, such as crystal structure and strain, internal temperature, or magnetic field information. In this presentation, we will discuss our ongoing development efforts, including studies of µPIC aging under intense neutron irradiation and recent on-beam tests of the triaxial µPIC (for improved rate) and a 5.5 cm x 5.5 cm area, 215µm-pitch µPIC (for improved spatial resolution).
GRAMS (Gamma-Ray and AntiMatter Survey) is a proposed balloon/satellite mission that will be the first to target both MeV gamma-ray observations and antimatter-based indirect dark matter searches with a LArTPC (Liquid Argon Time Projection Chamber) detector. As a milestone for GRAMS, we have conducted an engineering balloon experiment at JAXA’s Taiki aerospace research field. Furthermore, we will conduct verification tests for the particle - antiparticle identification method through the J-PARC T98 experiment and demonstration tests with a prototype LArTPC Compton camera. This talk will give an overview of these experiments, the current status and future plans.
GRAMS実験では液体アルゴンTPC(LArTPC)を用いた宇宙反物質の検出を目指している.そのため標的となる反粒子検出手法の確立が必要であり,J-PARCハドロンホールK1.8BRでの反粒子同定実験を予定している.それに向けて現状使用しているTPCのAnodeの再設計を行なっている.本講演では今まで使用してきたTPCと現在開発しているTPC Anodeについて概要と現状,今後の方針について報告する.
GRAMS実験は液体アルゴンTPCを搭載した気球実験であり,宇宙線反粒子探索による暗黒物質間接探索を目標の一つとする。液体アルゴンTPCの反粒子識別原理検証のためJ-PARCハドロンホールにおいて反粒子ビームを用いたT98実験Phase2を計画している。本発表では,LArTPC用として開発されたASIC LTARSを搭載した信号読み出し基板であるTIGArBoardの概要とその特性評価について報告する。
NEWAGEをはじめとした方向感度を持つ暗黒物質(WIMP)探索実験は、ガスTPCを用いてはくちょう座方向に対する原子核反跳の角度を測定することで、ニュートリノフロアと呼ばれる太陽ニュートリノBGによる感度制限を超えた低質量暗黒物質探索を行うことを目指している。一方、低質量暗黒物質由来の信号においては反跳原子核の飛跡が短く、検出器の読み出し粒度より短い飛跡の再構成ができない問題があった。この問題を打開すべく、微細ピッチのピクセル読み出し型ガスTPCの開発を進めている。本講演では、その進捗状況を報告する。
大強度重イオンビームを用いた非弾性散乱や核子移行反応の測定を行うため、ガスアクティブ標的 CAT-M の開発を進めてきた。重イオン照射の際のデルタ線に対する対策が課題であったが、永久磁石を用いた双極磁石の導入によって排除を試みた。本講演では最近の進展について報告する。
原子核反跳に伴い、ミグダル効果と呼ばれる追加の励起や電離を起こす現象が低確率で生じうると考えられている。このミグダル効果観測が暗黒物質探索に応用されれば、エネルギー閾値が下がり感度が向上する。MIRACLUEは中性子ビームを用いてミグダル効果観測を目指しており、昨年4月にAISTでガスXe検出器を用いたビーム試験を行った。本講演では、使用したXe検出器や、ビーム試験の測定結果について報告を行う。
液体アルゴンTPCは、半導体検出器と比較して大きな体積を実現しやすく、ガスTPCと比較して高密度であることから、宇宙ガンマ線を高い効率で検出する事が可能となる。液体アルゴンTPCにおいて、ガンマ線の到来方向決定精度向上のためには、低雑音の2次元読み出しが鍵となる。 AstroPixは、数百ミクロン角(200~500ミクロン)のピクセル型検出器であり、ガンマ線のコンプトン散乱による反跳電子や、対生成による電子・陽電子の飛跡再構成に適度なピクセルサイズと、エネルギー分解能を有する。 本講演では、液体アルゴンTPC宇宙ガンマ線観測観測装置の概要を紹介し、AstroPixの開発状況、性能について報告する。
MEG II実験はスイスにあるポール・シェラー研究所で行われているµ→eγ崩壊探索実験である。 MEG II実験では背景事象となるミューオンの輻射崩壊から来る背景ガンマ線を積極的に同定するための検出器をビーム軸上、上流側と下流側の二箇所に導入する。 上流側の検出器は大強度かつ低運動量のミューオンビームが通過するため、厳しい開発要請が課せられている。 我々は現在、要請を満たすことのできる検出器としてDiamond-Like Carbonを高抵抗電極に用いたResistive Plate Chamber (DLC-RPC)を開発している。 2023年8月-9月にKEK Platform-CのX線発生器を使用した本検出器の劣化試験を実施した。本講演では、その試験の詳細および結果について報告する。
2009年以降、これまで15年にわたってMPGD開発の国際的コラボレーションとして RD51 が機能してきましたが、2023年末をもって発展的解消となり、2024年より MPGD, RPC, ワイヤーチェンバー、ストローチェンバーなどガス検出器のコミュニティをまとめて、DRD1 が発足することになりました。 これまでの RD51 の総括と、DRD1 についての紹介を中心に、MPGD開発の海外動向についてお話ししたいと思います。